映画「ファインディング・ニモ」で世界中に愛されるようになったクマノミ。沖縄の美しい海でも、イソギンチャクと仲良く暮らす姿を見れます。しかし最近、沖縄本島周辺でクマノミの個体数減少が確認されています。科学的研究により、海水温上昇やマイクロプラスチック汚染などの複数の原因がわかってきました。クマノミが減っている原因や、私たちにもできる海洋保護の方法について、一緒に見ていきましょう。
そもそもクマノミってどんな魚?
クマノミの減少について話す前に、まずはこの愛らしい魚について知っておきましょう。実は、私たちが思っている以上に面白い生態を持っています。
映画「ニモ」で有名になった愛らしい魚
クマノミといえば、やっぱり映画「ファインディング・ニモ」を思い浮かべる方が多いでしょう。でも実は、ニモのモデルになったカクレクマノミと、沖縄でよく見られるクマノミは別の種類です。
世界には約30種類ものクマノミが存在します。沖縄周辺では6種類に出会うことができます。カクレクマノミはオレンジ色に白い縞模様が印象的。一方、沖縄で一番多いクマノミは、やや大きめで背中が黒っぽいという特徴があります。
イソギンチャクとの不思議な共生関係
「イソギンチャクって毒があるのに、なぜクマノミは刺されないの?」この疑問、持ったことありませんか?実は100年以上も謎とされていたこの仕組みが、科学的に解明されました。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の最新研究で、クマノミの体を覆う粘液には、イソギンチャクの毒針を発射させる、「シアル酸」というイソギンチャクの毒針を出させる物質が、ほとんど含まれていません。
この関係は、クマノミはイソギンチャクから守ってもらう代わりに、イソギンチャクを狙う魚を追い払い、栄養も提供するという共生関係をもっています。
クマノミの赤ちゃんは最初からイソギンチャクと仲良くできるわけではありません。生まれたばかりの頃は「シアル酸」があるため、近づくと刺されてしまいますが、成長するとシアル酸が少なくなります。
そうしてようやく、安全にイソギンチャクの中で暮らせるようになるのです。まさに両方にとって得になる関係といえるでしょう。
実は性転換する驚きの生態
クマノミには、魚類の中でも珍しい性転換の習性があります。生まれた時は全てオスで、群れの中で最も大きな個体がメスに性転換するのです。
群れは1匹のメス、1匹の繁殖可能なオス、そして複数の未成熟なオスで構成されます。メスが死んだり群れを離れたりすると、繁殖可能なオスがメスに変わり、群れの秩序を保ちます。
クマノミの繁殖期には、オスが岩の表面をきれいに掃除して産卵床を準備します。メスが産卵すると、オスが約1週間かけて卵を守り、酸素を送るために胸びれで新鮮な海水を送り続けます。
では、クマノミが減少している現状について詳しく見ていきましょう。
沖縄のクマノミに起きている深刻な変化

可愛らしいクマノミの生態が分かったところで、気になる本題に入りましょう。沖縄の海で一体何が起きているのでしょうか?
数字で見る個体数減少の実態
沖縄本島周辺のクマノミの個体数は、石垣島や宮古島と比べて著しく少ないことがわかっています。特に海岸に近い浅い場所での減少が目立っています。
この状況から、2021年6月から「瀬良垣島・クマノミ育成プロジェクト」がスタートしました。沖縄科学技術大学院大学(OIST)とハイアット リージェンシー瀬良垣アイランド沖縄が手を組んだ取り組みです。
私が体験したダイビング現場のリアルな声
私は恩納村のダイビングショップで、ベテランのインストラクターからこんな話を聞きとても悲しくなりました。
「昔は”ここに行けば絶対にクマノミがいる”という場所があった。でも今は、イソギンチャクだけがポツンと残っていたり、イソギンチャクごとごっそりとなくなっている。イソギンチャクはあるのに住人がいない。まるでマンションに誰も住んでいないような、不思議な光景です」
という言葉を聞いたのを今でも覚えています。私も毎回潜るたびに見に行っていた、大きなクマノミの群生が岩ごとごっそりなくなっていてショックを受けました。
この現場の声が、科学的な調査の必要性を物語っているように感じます。
クマノミの減少は沖縄だけの問題ではありません。世界的に個体数の減少が報告されています。研究機関による調査で、減少の具体的な原因が科学的に解明されてきました。その詳細をお伝えしましょう。
研究で分かったクマノミ減少の原因
減少の事実は分かりました。でも、なぜクマノミが減ってしまったのでしょう?科学者たちの調査で、驚くべき事実が明らかになってきています。
海水温上昇が与える深刻な影響
OIST海洋気候変動ユニットの研究で、海水温度が3℃上昇したことで、クマノミの赤ちゃんの成長に致命的な影響を与えていることがわかりました。
高温ストレスを受けたクマノミでは、なんと450以上もの遺伝子の働きが変化していました。暑さから身を守ろうとする遺伝子が活発になる一方で、神経の働きに関わる大切な遺伝子の活動が弱くなってしまうのです。
海水が温かくなると、クマノミは自分の体を小さくして生き延びようとします。でも、それは同時に繁殖能力の低下も意味します。生き残るためのの対策が、今度は子孫を残せなくなるという皮肉な現象といえるでしょう。
目に見えない汚染物質の脅威
OISTの研究者による調査で、沖縄の海洋生物の体内からマイクロプラスチックが検出されています。カクレクマノミ、ハタ、ウニなどの体内に蓄積が確認されました。
マイクロプラスチックには発達障害を引き起こす化学物質が含まれており、海洋生物の健康に深刻な影響を与える可能性があります。特に成長期・稚魚の前段階にあたる幼生の仔魚への影響は深刻です。
住む場所そのものの消失

クマノミの生息に欠かせないイソギンチャクとサンゴ礁の環境悪化も深刻な問題です。海水温上昇により、サンゴの白化現象が頻発しています。
イソギンチャクも高水温や水質汚染の影響を受けやすく、クマノミの住処そのものが失われているのです。住む場所がなければ、当然ながらクマノミは生存できません。
沿岸開発による海底環境の変化も、従来の生息地を破壊する要因となっています。土砂の流出により、海水の透明度が低下し、サンゴやイソギンチャクの光合成に悪影響を与えています。
深刻な状況が続く中、科学技術を活用した保護活動が本格的に始まっています。希望の光となる取り組みをご紹介しましょう。
科学の力で進む保護活動
ここまで読むとかなり危機感に迫られていると感じるかもしれません。でも安心してください。諦めるのはまだ早いです。実は、希望的な取り組みがたくさん始まっています。
研究機関と企業の画期的コラボ
OISTとハイアット リージェンシー瀬良垣アイランド沖縄による共同プロジェクトは、学術研究と観光業界の画期的な連携事例です。ティモシー・ラバシ教授の海洋気候変動ユニットが、環境変化に対するクマノミの適応性を研究し、人工繁殖に取り組んでいます。
ホテルの収益の一部が研究資金として還元される仕組みにより、持続可能な保護活動が実現。観光客もプログラムに参加することで、楽しみながら海洋保護に貢献できます。
世界初の技術で命を救う取り組み
沖縄美ら海水族館では、シライトイソギンチャクの繁殖個体を世界で初めて展示に成功しました。2020年に世界初成功したハタゴイソギンチャクの繁殖技術を応用した成果です。
クマノミ類が共生するイソギンチャクは観賞用として人気が高く、捕獲によって数が減ることが心配されています。人工繁殖の技術ができたことで、密漁や違法な採取を減らすことができるようになります。
まとめ

クマノミの減少について調べれば調べるほど、私たちの日常生活と海洋環境の深いつながりを感じます。遠く離れた沖縄の海で起きている変化は、決して他人事ではありません。
研究者たちの取り組みで、解決策が見つかりつつあることに希望が見えてきます。OISTと企業の連携、美ら海水族館の新しい技術、そして私たち一人ひとりの意識が力を合わせれば、海の環境を良くしていけるかもしれません。
あの可愛いクマノミが、これからも沖縄の青い海で元気に泳いでいる姿を見たいと思いませんか。まずはできることから始めてみましょう。
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