旧暦の7月、沖縄ではご先祖様を迎える大切な行事お盆が行われます。本土と異なる3日間の流れウンケー・ナカビ・ウークイは、今も多くの家庭に根付いています。なかでも初日のウンケーは、ご先祖様を丁寧にお迎えする大切な日です。この記事では、ウンケーとは何か、そして筆者の家での実際の様子も交えて紹介します。
1. 旧暦で行われる沖縄のお盆とは
沖縄のお盆は、旧暦の7月13日から15日までの3日間にわたって行われる伝統的な行事です。
初日がウンケー(お迎え)、中日がナカヌヒー(またはナカビ)、最終日がウークイ(お見送り)と続く流れになっており、本土の迎え火・送り火とはまた異なる、独自の風習が今も根づいています。
この3日間の目的は、ご先祖様を家に迎え入れ、一緒に過ごし、最後に感謝を込めてお見送りすることです。沖縄では祖先をとても大切にし、トートーメー(位牌)に手を合わせる文化が現在も生活の中でしっかり根づいています。
お盆は旧暦に合わせて行われるため、毎年の日程が変動します。
たとえば2025年の旧盆は、旧暦7月13日が新暦の9月4日に当たり、通常より約1ヶ月ほど遅れて訪れる予定です。これは2025年がユンヂチ(閏月)の年にあたるためで、このような暦のズレにも注意が必要です。
また、地域によってはお盆が4日間にわたる場合もあり、ナカビが2日間設けられることもあります。
このように、お盆の日程だけでなく、過ごし方にも地域ごと・家庭ごとのバリエーションが多くあり、それもまた沖縄ならではの魅力の一つとなっています。
2. ご先祖様を迎える”ウンケー”の意味と風習
ウンケーとは、お盆の初日を意味する沖縄の方言で、祖先をお迎えする日にあたります。
この日は、ご先祖様の霊があの世から戻ってくるとされ、家族はその訪れを歓迎するために、朝早くから準備を始めます。仏壇を清め、供え物を整え、心静かにウートートー(手を合わせて祈ること)を行う――その一連の流れがウンケーの基本です。
供え物の中心となるのは、ウンケージューシーと呼ばれる炊き込みご飯です。ジューシーは沖縄料理の定番でもありますが、ウンケーで供えるジューシーは特にご先祖様へのおもてなしの意味を込めて作られます。
昆布、にんじん、豚三枚肉などが入った香ばしい炊き込みご飯に、酢の物(ウサチ)などを添え、ひとつの御膳に盛りつけて供えるのが一般的です。
御膳は、ご先祖様の人数によって1膳または2膳用意されます。故人1名のみの場合は1膳、複数の霊位を祀っている場合には2膳が通例です。
仏壇の中央に丁寧に御膳を並べ、その前でヒラウコー(平御香)を焚いて香りを立たせます。そして、仏壇の両脇にはウージ(さとうきび)をまっすぐに立てて、ご先祖様を迎える準備を整えます。
なかでも特に忙しくなるのが、本家(ムートゥーヤー)での拝みです。本家には、親戚や分家の人たちが訪れて手を合わせに来るため、早朝から準備に追われることもしばしばです。
仏壇の前で家族全員が正座し、手を合わせる姿は、今も多くの沖縄の家庭で見られる夏の風景となっています。
ウンケーは単なるお盆の始まりではなく、ご先祖様を“帰ってきた家族”として迎え入れる特別な日です。形式や習わしは大切にしつつも、もっとも大切なのは「ようこそ、おかえりなさい」という気持ちです。
それを形にして伝えるのが、この一日の核心なのかもしれません。
3. 仏壇の飾り方の基本
沖縄のお盆でご先祖様を迎えるために欠かせないのが、仏壇の飾りつけです。特にウンケーの日には「ここがあなたの帰る場所です」と示すように、丁寧に整えます。
沖縄の仏壇は4段構造が基本で、各段に意味のある供物を配置します。中央にはひとつだけのものを供え、その左右に一対(つい)の供物を置くのが特徴です。ここでは段ごとの役割と代表的なお供え物を紹介します。
段ごとの飾り方と中央の供え物
仏壇の段ごとに置かれる供え物は、ご先祖様を迎えるための道しるべであり、敬意の表れでもあります。中心となる供え物はそれぞれ1つだけという点も特徴的です。
- 5段目(最上段):中央にトートーメー(先祖の位牌)を祀ります。
- 4段目:中央にお酒(泡盛や清酒)。家庭によっては水を添えることもあります。
- 3段目:中央にウコール(香炉)を置き、ヒラウコー(平御香)を焚きます。
- 2段目:中央に配置するお供えはありません。
- 1段目:御膳を供えます。1〜2膳が一般的です。
左右に一対で供えるもの
仏壇では、中央の供え物の左右に対(つい)になるように物を並べるのが基本です。これは陰陽の調和を表し、ご先祖様へのバランスの取れたもてなしの形となります。
- 供え花:最上段の位牌の左右に花を一対ずつ。
- お茶(ウチャトゥ):4段目のお酒の左右に小茶碗を2つ。
- 果物(ナイムン):ガンシナに乗せたスイカやメロンなどを一対。
- 果物の盛り合わせ:りんごやみかんなどを器に盛り、3段目の左右に。
- 白団子:7個ずつ器に乗せて一対に。
- ウージ(さとうきび):3節を7本ずつ束ね、2束を一対にして左右に飾ります。
沖縄特有の飾り物
沖縄の仏壇には、全国的には見られないユニークな飾りも多数登場します。それぞれに意味があり、自然や信仰と深く結びついています。
- ナナフシウージ:ご先祖様の“杖”として仏壇の左右に立てます。
- ガンシナ:丸く編んだ敷物。上に果物を飾り、豊かさと敬意を表します。
- ぼんぼり:仏壇前に並べ、明るく迎えるための演出。
- ミンヌク:無縁仏を避けるための供物。仏壇の下や門前に置かれます。
仏壇の飾りは、ご先祖様を迎えるおもてなしの心を表現するものです。地域や家庭ごとの違いを大切にしながら、丁寧に準備することが何よりの供養になります。
4. わが家のウンケー
筆者の家庭でのウンケーの様子をご紹介します。沖縄本島の中部に住むわが家では、旧盆の1週間ほど前から準備が始まります。
中心となるのは祖母と母で、台所ではウンケーの日に備えてジューシーを炊いたり、仏壇に供える果物を飾り付けたりと、慌ただしい日々が始まります。
わが家では、ウンケーを夕方5時ごろに行います。これは「焦らずゆっくりおいでね」という気持ちを込めた習わしで、祖母から母へと伝えられてきたものです。
その時間になると、仏壇の前に供物を並べ始めます。ウンケージューシーをよそったお膳のほか、家庭料理のチャンプルーや祖母の手作りの漬物などが用意されます。
仏壇の中には、ウージ(さとうきび)をまっすぐに立てます。これはご先祖様が家に迷わずたどり着けるようにという意味があるようです。
香炉にヒラウコー(線香)を焚き、祖母が手を合わせて静かにウートートーを始めると、家の空気がどこかすっと変わるように感じられます。
そして、仏壇の前に家族がそろって座り、一人ひとりが手を合わせてご先祖様を迎えます。そのあとに家族で食事をとります。ご先祖様も一緒に食卓を囲んでいるような、不思議とあたたかい気持ちが湧いてくるのです。
こうした時間が、わが家にとってのウンケーの大切な風景です。
5. 沖縄のお盆の舞台裏
ウンケー当日を迎える前から、沖縄の家庭ではお盆に向けた準備が本格化します。スーパーや市場は前日から大混雑となり、ヒラウコーやウージ、果物や食材などを求める人で賑わいます。
お供え物の種類が多いため、買い物リストも自然と長くなり、計画的に準備を進めることが大切です。
店頭には旧盆特設コーナーが設けられ、ウチカビやヒラウコー、料理用の食材などがずらりと並びます。旧盆が近づくと、道路が渋滞したり、駐車場が混雑したりするのも毎年おなじみの光景です。
ムートゥーヤー(本家)へ挨拶に行く家庭では、とくに移動の段取りが重要になります。
最近では、昔ながらの作法を大切にしつつも、市販のお供えセットを活用する家庭も増えています。果物や菓子類などがあらかじめセットになった商品を使えば、忙しい中でもスムーズに準備ができます。
生活スタイルの変化に合わせて、お盆のあり方も少しずつ柔軟になってきているのです。
それでも多くの家庭では、「ウンケーには必ずウートートー(手を合わせて拝むこと)に行く」という思いが今も大切にされています。お供え物の内容ややり方に違いはあっても、ご先祖様を想う気持ちに変わりはありません。
手間がかかっても、家族で協力して準備をする時間そのものが、お盆の温かい思い出になっていくのです。
まとめ
ウンケーは、沖縄のお盆のはじまりであり、家族そろって先祖を迎える日です。そこには、ご先祖様を迎えるあたたかな心が込められています。
形式は本土と違っても、先祖を思う気持ちはきっとどこも同じでしょう。今年のお盆は、あなたのご先祖に、そっと思いを馳せてみませんか。
あとがき
今年のお盆は9月にやってきますが、この時期になると、わが家では「そろそろお盆の準備をしないとね」という会話がちらほら聞こえてきます。少しずつ気持ちがご先祖様へと向かう、そんな季節の始まりです。
今回は、お盆の初日「ウンケー」についてご紹介しました。次回は中日「ナカヌヒー」にスポットを当ててお届けします。どうぞ次回もお楽しみに!
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