沖縄の旧盆3日間──ウンケー、ナカヌヒー、ウークイ──の最終日ウークイは、ご先祖様をあの世へ送り出す日です。一緒に過ごした時間への感謝を込めて、丁寧にお見送りすることで、また来年も無事に迎えられるよう祈ります。この日は、ウチカビ(あの世のお金)を燃やし、旅支度を整える大切な儀式が行われます。この記事では、ウークイの儀式の流れやその意味、そして地域に息づく送りの風景を、筆者の体験を交えながら紹介していきます。
1. 旧盆の締めくくり、ウークイとは
沖縄の旧盆三日間──ウンケー、ナカヌヒー、ウークイ──の最終日を飾るのがウークイです。
旧暦7月15日にあたるこの日は、ご先祖様をあの世へ見送る大切な日であり、ウークイとはお送りを意味します。迎えたときと同じように、感謝と敬意を込めて丁寧に見送ることが、この行事の本質とされています。
ウークイ当日の朝はナカヌヒーと同様に、ご飯や味噌汁、酢の物(ウサチ)、お茶などの基本的なお供えを仏壇に用意します。そして夕方になると、本格的な見送りの準備が始まります。
なかでも特徴的なのが、豪華な重箱料理(ウサンミ)のお供えです。
仏壇前に並べたあと、その料理の一部を取り出して重箱の上にひっくり返すウハチケーシ(お初返し)という儀式が行われ、ご先祖様への最初の一口を差し上げるという意味が込められています。
また、ウークイの日はジューグニチと呼ばれるヒヌカン(火の神様)への月例の拝みの日でもあります。
朝一番には感謝と報告を捧げ、夕方にウサンミが完成した後には、その一部をウチャワキ(お茶脇)として再びヒヌカンに供えるという丁寧な習わしもあります。これは火の神様への節度ある礼儀を重んじる、沖縄らしい祈りのかたちです。
ウークイは、ご先祖様への感謝を表す大切な日です。
仏壇前での拝みに加えて、最後は門前でもお見送りを行い、「今年もありがとうございました。また来年もお越しください」という気持ちとともに、現世からあの世への旅立ちを見送ります。
名残惜しさとともに、今年も無事に送り出せたという安堵が広がる──それが、ウークイの夜の空気なのです。
2. ウチカビの意味と役割
ウークイで欠かせないもののひとつが、ウチカビ(打ち紙)です。ウチカビとは、あの世で使うとされるお金のことで、丸い刻印が印刷された薄い紙でできています。
仏具店やスーパーで手軽に購入できますが、その見た目や独特の質感は、はじめて触れる人にとって新鮮な驚きがあるかもしれません。
ウチカビを燃やすのは、ご先祖様があの世に帰る際の“旅の支度”を整えるためです。ウチカビを焚く=ご先祖様への送金という意味が込められており、「あの世で困らないように」「帰り道が安全であるように」といった家族の願いが重なります。
拝みが終わったあとの夕方、ご先祖様に感謝を伝えた後に行われるのが、このウチカビを燃やす儀式です。金属製の器カビバーチを使って、家長(ムートゥヤー)は5枚、それ以外の家族や親族は3枚ずつウチカビを順番に焚いていきます。
最後に、ウチカビを焚き終えたあとのカビバーチ(金属の器)に、燃え残った線香や、仏壇に供えていた花、水などを加えます。
これは、ご先祖様があの世へ帰る際に持っていく手土産として用意するものです。
ウチカビを燃やす際には安全にも配慮が必要です。火を扱うため、必ず風通しのよい場所で行い、子どもが一緒にいる場合は必ず大人が付き添いましょう。
ウチカビの炎が揺れるその時間は、ご先祖様との“かたちあるお別れ”のひとときです。火を見つめながら心の中でありがとうと語りかける──その行為こそが、ウークイの夜に静かな温かさをもたらしてくれるのです。
3. ウークイの食事と儀式
ウークイの夜は、ご先祖様との最後のひとときを彩る大切な食事と祈りの儀式が行われます。ナカヌヒーよりもさらに丁寧な御馳走を仏前に供え、感謝の気持ちを込めてお見送りします。
とくに欠かせないのがウサンミ(御三味)と呼ばれる重箱料理です。これは、ご先祖様が旅立つ前にいただくお膳で、旧盆におけるもっとも格式の高い供え物とされています。
重箱料理には家庭差もありますが、正式な四段重チュクンを用意するのが一般的です。上下2段ずつに分かれ、それぞれに役割があります。
- 上段2段(ムチジュー/餅重):餅を15個や21個など、奇数個詰めるのが基本です。
- 下段2段(おかず重):三枚肉、かまぼこ、昆布巻き、天ぷら、豆腐料理などが並びます。
さらに、お酒やビール、たばこなど、先祖が好んでいたものを添えることもあります。
最近では仕出しやスーパーを利用する家庭も多くなりましたが、今でも早朝から手作りする家もあり、その手間が祈りの一部として大切にされています。
拝みの終盤ではウハチケーシ(お初返し)の儀式が行われます。重箱から2〜3品を取り出して上に乗せ、ご先祖様に最初の一口を差し上げるという意味を持ちます。
このとき、家族は「今年も無事にお迎えでき感謝します」「来年もどうぞお越しください」といったグイス(拝み言葉)を唱えながら祈りを捧げます。
儀式が終わると、供えた料理を家族で分け合うウサンデーの時間となります。これは、ご先祖様からのお下がりをいただく、感謝のひとときです。
ウークイの食卓は、ただの儀式ではなく、感謝を形にする大切な場でもあります。
4. 道ジュネーと地域の風景
ウークイの夜、沖縄の各地で鳴り響くのがエイサーの太鼓と歌声です。道ジュネーとは、若者たちが太鼓や踊りを通して地域を練り歩き、ご先祖様を見送る伝統行事のことです。
もともとは、青年会や地域のグループが中心となって行っていた道ジュネーですが、近年では観光イベントとしても人気を集めています。那覇市や沖縄市では、沿道に多くの観客が詰めかけ、活気あふれる光景が広がります。
なお、道ジュネーの巡回ルートは地域ごとに異なり、それぞれの町ならではの特色が表れます。その道すがらには、地域の一体感や、世代を超えたつながりを感じられる温かな雰囲気が広がっています。
また、道ジュネーには以下のような役割もあります:
- 先祖をあの世へ見送る
- 地域の安全と繁栄を願う
- 各家庭の無病息災を願う
子どもたちが道端で手拍子をしたり、お年寄りが目を細めて見守ったりする光景も、ウークイの夜ならではのものです。道ジュネーは、祈りと感謝を響かせながら地域に息づく文化として、今も多くの人に愛されています。
5. わが家のウークイ
筆者の家でも、ウークイは毎年大切にしている一日です。朝から母と祖母が台所に立ちじっくりと重箱料理を仕込んでいきます。三枚肉や揚げ豆腐、かまぼこなど、仏前にふさわしい料理を夕方までかけて完成させます。
重箱以外にも、子どもたちや若い世代が楽しめるようにと、フライドチキンやポテトサラダなども食卓に並びます。みんなでテーブルを囲んで「いただきます」と手を合わせるその瞬間には、世代を超えた笑顔があふれ、にぎやかな空気に包まれます。
仏壇の前では、ご先祖様が好きだったお酒やお菓子、果物を添えたあと、ウチカビを準備します。
我が家では1枚=一億円という設定で計算されており、「あの世の物価は高いからね」と祖父が笑いながら教えてくれます。だからこそ、少し多めに燃やして「足りなくなったら困るでしょ」と念を込めるのが恒例になっています。
夜になると、外から太鼓の音が聞こえてきます。近くの公民館から出発した青年会のエイサー隊が、道ジュネーで各家庭をまわってくるのです。
太鼓と指笛の響きが近づくにつれ、「ああ、もうすぐお盆も終わるんだな」と、ふと胸がきゅっとなる瞬間があります。
拝みが終わったあとは、仏壇の前でウチカビを焚きます。ゆっくりと舞い上がる煙を見ながら、「気をつけて帰ってね」「また来年ね」と静かに手を合わせます。
火が消えるまでのあいだ、自然と家族の会話も続き、笑い声と祈りの気持ちが同じ空間にやさしく流れていきます。
にぎやかさと静けさが交差するのが、わが家のウークイです。そのひとときが、心にぽっと灯をともしてくれるような、そんな大切な時間になっています。
まとめ
ウークイの夜は、ご先祖様との別れと、新たな始まりが重なる不思議な時間です。静かに手を合わせるそのひとときに、言葉にできない思いがそっと重なっていきます。
かたちにとらわれすぎず、あなたらしい送り方で、心を込めて見送ってみてください。その祈りはきっと、届くはずです。
あとがき
にぎやかさと静けさが入り混じる、ウークイの夜の様子を紹介しました。
ウンケー、ナカヌヒー、そしてウークイ──この三日間に込められた沖縄のお盆のかたちは、時代が変わっても、大切に受け継がれていくものだと感じます。
これにて、沖縄のお盆についての記事三部作は終了です。ここまで読んでくださったあなたにも、あたたかな記憶の一頁として届いていたら嬉しいです。
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