沖縄の伝統行事トゥンジーとジューシーレシピ

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沖縄の食文化や歴史に興味がある方にとって、冬至は見逃せない重要な行事です。沖縄では冬至をトゥンジーと呼び、無病息災や子孫繁栄を願い、特別な炊き込みご飯トゥンジージューシーをいただく伝統的な習慣があります。本土の冬至とは全く異なる意味合いを持つ沖縄独自の信仰と食の文化が詰まったトゥンジーを理解することで、沖縄の文化や歴史をもっと深く知ることができます。本記事ではその由来や御願(ウグァン)の作法、レシピの秘密まで徹底解説します。

冬至はトゥンジー沖縄の歴史に根ざした大切な節句

沖縄で冬至はトゥンジーと呼ばれ、単なる季節の節目ではなく、家族の健康と子孫繁栄を願う一年で最も大切な行事の一つとして、古くから大切にされてきました。2025年の冬至は12月22日(月)になります。

「冬至正月」とも呼ばれたトゥンジーの由来と意味

冬至は一年で最も昼が短く夜が長い日であり、太陽の力が最も弱まる日とされています。この日を境に再び太陽の力が強くなっていくとされ、運気を高める節目として重要視されてきたのです。

琉球王国時代には、冬至は元旦と同じくらい重要視されていたことが、歴史書に記されています。古い時代の暦では、冬至が正月であったとされ、トゥンジーソーグヮチ(冬至正月)とも呼ばれ王府が公事として盛大に行っていたほどです。

沖縄ではこの頃から強い季節風が吹き始め、本格的な冬の寒さが到来します。この厳しい寒さはトゥンジービーサー(冬至寒)と呼ばれ、この寒さに負けないように栄養をつけて乗り切るという意味も込められています。

  • 陰が極まり陽に転じる日:太陽の力が最も弱まった後、再び強くなる節目として運気上昇を願う日です。
  • 冬至正月としての重要性:琉球王国の時代から元旦に匹敵する公的な行事として扱われてきた歴史があります。
  • 家族の健康祈願:厳しいトゥンジービーサーに打ち勝つため、家族全員の無病息災と子どもの健やかな成長を祈願します。

この伝統が今もなお、沖縄の地元家庭でヒヌカン(火の神)や仏壇への御願(ウグァン)という形で大切に受け継がれています。現代においても、トゥンジーは沖縄の文化と歴史を深く体感できる機会と言えるでしょう。

行事食トゥンジージューシーに込められた願い

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トゥンジーの日に欠かせない行事食が、沖縄風炊き込みご飯のトゥンジージューシーです。

「芋」を使う理由子孫繁栄と健康祈願の象徴

ジューシーとは沖縄風の炊き込みご飯を指し、もともとは「汁気の多いご飯(雑炊)」という意味のヤファラジューシーから、現在のクファジューシー(固めの炊き込みご飯)へと形を変えてきました。

トゥンジージューシーは、このジューシーに特別な食材を加えた冬至限定の料理です。

本土では冬至にかぼちゃを食べる習慣がありますが、沖縄のトゥンジージューシーの特徴は、芋類をふんだんに入れることです。主に用いられる芋は、田芋(ターンム)や里芋(チンヌク)です。

芋類は子孫繁栄を願う縁起物とされています。具材にはこの芋の他に、豚三枚肉、昆布、にんじんなどを入れ、豚だしや鰹だしで炊き込みます。

この豚バラ肉の脂身から出る、コクと旨味がトゥンジージューシーの美味しさの秘密です。家族の健康を祈願しながら、心も体も温まる滋養の付く料理として、代々受け継がれています。

家庭で行うトゥンジーの拝み方御願の基本的な流れ

沖縄のトゥンジーは、行事食を食べるだけでなく、神仏へ感謝と祈願を捧げる御願(ウグァン)の作法が家庭で非常に重要視されています。

ヒヌカン(火の神)と仏壇への供え方と作法

トゥンジージューシーは、まずヒヌカン(火の神)や仏壇に供えられ、その後家族全員で分け合っていただきます。トゥンジーの拝みは、一般的に次のような流れで行われます。

  • 朝一のヒヌカンへの御願:台所に祀られている家の守護神であるヒヌカンへ、朝一番にトゥンジージューシーを供えます。日頃の火の安全への感謝と家族の健康祈願を伝えます。
  • 昼時の仏壇への御願:お昼頃にご先祖様が祀られている仏壇へ、トゥンジージューシーを供えます。ご先祖様の御守護への感謝とともに、家族の無病息災や子どもの健やかな成長を祈願します。
  • 家族での会食:御願を終えた後、家族全員で食事を共にすることで、神仏からの御加護を受けるという意味合いがあります。

あわせて、日常のお供え物(塩・水・酒)を整えます。線香は沖縄線香ヒラウコー(平御香)ならタヒラ半(2枚と半分)、日本線香の場合は15本(ジュウゴフンウコー)、または簡易版5本を立てます。

火の神は“霊的存在ではない”ため、箸や多くの品を並べず、「今日はいぬびち(冬至)の拝みでございます。家族の健康をお守りください。」と感謝を込めて手を合わせます。

公益財団法人 沖縄県メモリアル整備協会

神仏と食を共にするというこの習慣は、神仏への感謝を形にし、家族の絆を深めるという大切な役割を担っています。厳しい寒さの日に、家族そろって温かい料理を囲む、それが沖縄のトゥンジーに込められた健康祈願の形なのです。

本格派トゥンジージューシーレシピのコツ

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トゥンジー(冬至)の日に炊く「トゥンジージューシー」は、家族の健康と子孫繁栄を願う行事食です。もともと「ジューシー」は沖縄風の炊き込みご飯で、語源は「汁気の多いご飯(雑炊)」という意味です。

時代とともに雑炊から炊き込みご飯へと形を変え、今では家庭の味として親しまれています。

具材の考え方と意味

トゥンジージューシーの特徴は「芋を入れるジューシー」であることです。沖縄では、田芋や里芋(チンヌク)を加えることで、「子孫繁栄」「家系が続く」という意味を込めます。

  • 田芋・里芋(チンヌク):子孫繁栄・無病息災
  • 豚肉(三枚肉):生命力・力強さの象徴
  • 昆布:「喜ぶ」に通じる縁起物
  • しいたけ・にんじん:彩りと調和
  • 油揚げ:家庭円満を意味する食材

地域や家庭によって材料や味付けは、少しずつ異なります。塩味をきかせてさっぱり仕上げる家庭もあれば、豚だしやかつおだしでコクを出すところもあります。大切なのは家族の好みに合わせて、心を込めて炊くことです。

家庭でできる基本手順

トゥンジージューシーの作り方は、特別むずかしいものではありません。普段のジューシーに芋を加えるだけで、立派な「トゥンジー(冬至)」のお供え料理になります。

家族のために心を込めて炊く気持ちを大切に、以下の手順で進めてみましょう。

  • 米を研ぐ:通常の炊飯と同じように米を研ぎ、やや硬めの水加減にします。
  • 具を切る・炒める:芋・豚肉・にんじん・しいたけなどを食べやすい大きさに切り、少量の油で軽く炒めます。炒めることで香りが立ち、旨みが全体に広がります。
  • 炊飯する:炒めた具を炊飯器または鍋に加え、昆布とかつおのだし、醤油・塩・酒などで味を整えます。具と米をよく混ぜ、通常の炊飯モードで炊き上げます。
  • 蒸らして混ぜる:炊き上がったら、10〜15分ほど蒸らして全体を軽く混ぜます。芋が崩れすぎないよう、しゃもじでやさしく仕上げましょう。

炊きたての香ばしい湯気には、トゥンジーの祈りが宿ります。でき上がったトゥンジージューシーは、ヒヌカンや仏壇にお供えしてから「ウサンデー(お下げ)」を行い、家族みんなでいただきましょう。

手作りの一椀が、冬至の御願をよりあたたかく彩ります。

本土の冬至文化との違いとトゥンジーの現代的な役割

沖縄のトゥンジー文化は、日本本土の冬至の過ごし方と、いくつかの点で大きく異なります。本土では冬至にかぼちゃを食べて柚子湯に入る習慣が広く知られていますが、沖縄には柚子湯に入る風習はありません。

代わりにトゥンジージューシーを作り神仏に供えてから家族でいただく独自の食文化が中心となります。

カボチャや柚子湯がない沖縄独自の食文化の発展

この違いは、沖縄の独自の信仰文化に大きく影響を受けています。本土では陰陽思想や語呂合わせ(冬至=湯治)が中心なのに対し、沖縄では火の神(ヒヌカン)や祖先供養といった、沖縄独自の信仰と農耕儀礼が、行事の中心にあるためです。

本土との主な違いは、次のようになります。

  • 行事食:本土がかぼちゃや小豆粥であるのに対し、沖縄は芋(ターンム/チンヌク)が入ったトゥンジージューシーです。
  • 風習:本土の柚子湯のような体を温めるための風習は沖縄にはなく、ヒヌカンや仏壇への御願が行事の中心となります。
  • 伝統的な飲み物や雑炊:沖縄にはカチューユーやボロボロジューシー(雑炊)など、寒い冬に体を温めるための伝統的な飲み物や雑炊があります。

現代においても、トゥンジージューシーは家族の健康を願うという、大切な役割を果たし続けています。学校給食でもトゥンジージューシーが献立として登場するなど、若い世代へと伝統を伝えるための重要な教材ともなっています。

沖縄を旅行する際には観光地を巡るだけでなく、ぜひトゥンジーの時期に訪れて、独自の行事食や文化に触れることで、沖縄の歴史と人々の暮らしをより深く理解することができるでしょう。

まとめ

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沖縄の冬至「トゥンジー」は、琉球時代から続く家族の無病息災と子孫繁栄を願う、歴史と信仰が凝縮された大切な日です。

本土とは異なる独自の御願(ウグァン)の作法や、芋を使った行事食「トゥンジージューシー」の知恵は、沖縄の暮らしや文化を深く理解する上で欠かせません。

これから沖縄へ旅行に行かれる方、食文化に興味がある方は、ぜひ伝統のジューシーを味わい、地元に根付く心の文化に触れてみることを強くおすすめします。一椀の炊き込みご飯から、沖縄の温かさを感じられるでしょう。

あとがき

沖縄の冬至「トゥンジー」に込められた深い歴史と家族への想いが伝わったなら幸いです。トゥンジージューシーは、ただの料理ではなく、琉球の信仰や人々の知恵が詰まった「ぬちぐすい」(命の薬)です。

沖縄に興味を持たれた方は、ぜひ次の冬至の時期に、地元の行事食を味わってみてください。スーパーでも販売していますが、家庭で手作りすることで、より身近に感じられると思います。

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